お問い合せ
校長メッセージ

良いものを大切にする教育 

横浜共立学園中学校 高等学校 校長 坂田雅雄
横浜共立学園中学校 高等学校
校長 坂田雅雄

 東日本大震災で、被災された多くの方々に心よりお見舞い申し上げます。
 さて、本学園は今年創立一四〇周年を迎えます。一八七一年、横浜共立学園の前身アメリカン・ミッション・ホームが横浜山手四八番で誕生し、このホームは日本において近代的学校の形態をとった最も古いキリスト教の教育機関です。このホームを始めたのはプライン、クロスビー、ピアソンの三人の女性宣教師です。そして寄宿舎制や、幼児教育も、わが国で最初に始めています。
 アメリカン・ミッション・ホームの教育については、三人の女性宣教師の献身的な活動に感激した当時の著名な知識人、中村正直が、生徒募集の一文を書いて社会に紹介しています。
 自分の一生を日本のために、横浜共立学園のために捧げるということは、よほどの強い信仰と深い人間愛がなければ不可能です。クロスビー、ピアソン両先生の墓は山手の外人墓地にあります。
 創立者の教育を引き継いで、学園では(一)挨拶をする(二)時間を守る(三)物を大切にする、ということが長く大切にされています。いずれもありふれた内容と思いますが、しかし重要なことと思います。
 物を大切にする、例えばヴォーリスの設計による本校舎は、一九三二年竣工以来、現在でも現役で使用しています。
 先日の東日本大震災では、この校舎のコンクリートの煙突にひび割れが生じました。調査したところ、現在の耐震基準に比較すると鉄筋の本数が不足しているとのことで、やむなく煙突は撤去することにしました。誠に残念です。
 本学園では、約五〇年前、日本では当時数少ないスタインウェイのピアノを購入し、現在まで使用しています。一九五九年製フルコンサートモデルD-274です。そして本校舎と同様に横浜市の指定有形文化財になっている貴重な建物である214番館にも、2台目のスタインウェイ、アップライトピアノモデルK-132が設置されています。
 「良い物を、長く大切に使う」そのような考えが学園には脈々と生きているのです。
 原発事故以来節電の機運が高まってきました、私達は電力に限らず、一旦身についた賛沢はなかなか抜けません。物を大切にするという風潮が薄れてしまっていることを反省させられます。
 小学校、中学校、義務教育の教科書は無償給与にする、これは正しいかもしれませんし、有難いことかもしれませんが、私は日本人が物を大切にしなくなった原因の一つはここにあると思っています。教科書が買えない家庭の子どもに無償給与するなら分かります。しかし一律に無償給与すれば、やがて有難みも薄れ、物を大切にする心を育てることが難しくなると思います。
 しかも教科書無償給与や子ども手当てなど、一律に支給することは、平等のように見えますが、じつは格差社会をますます激化していく方向に向かわせると思われます。
 本当に眼を向けるべき、見捨てられた人たち、虐げられた人たちを忘れる結果ともなるのです。
 大事なことは、物を大切にすることから繋いで、人を大切にするという気持ちを育てることではないでしょうか。
 キリスト教教育の最も基本的なことは、高度な学問を身に付けるのも、自分の利益の目的で使うのでなく、隣人のために使うということです。隣人を愛する心を育てることにあります。
 イエス・キリストは当時の社会の中で虐げられている人たちに目を向けました。羊飼いや徴税人、漁師、病気に苦しんでいる人たちにです。
 12人の弟子を選ばれましたが、単純に考えれば、なぜもっと聖書の勉強をしている立派な人を選ばなかったのか、そうすればイエスの教えももっと周囲の人たちに理解されたのではないのかという疑問が自然にわきます。しかしイエスはあえて、ペトロなどやマタイなどの徴税人を弟子にしています。
 マタイによる福音書の九章九節~一三節で、ファリサイ派の人たちが弟子たちに、『なぜ、あなたたちの先生は徴税人や罪人と一緒に食事をするのか』と質問しています。しかし弟子達はそれに応えられず、イエスが旧約のホセア書六章六節をもって応えています。
 でもイエスはたぶん弟子たちのような人こそ、本当に苦しんでいる人のことを理解できる人たちと見抜いておられたので、あえて弟子に選ばれたのでしょう。
 キリスト教は愛の宗教といわれていますが、イエスの愛は、博愛的な愛ではなく、かなり偏った愛だと言えます。どちらに偏っているのか、金持ちや地位のある人、社会で認められている人にではありません。本当に苦しんでいる人、自分の力ではどうにも出来ない状況に陥っている人に向けられる愛なのです。
 愛の実践は観念論ではありません。難しいことですが私たちの心のあり方の問題なのです。
 キリスト教教育の基本は、人の心のあり方を考えさせることであり、学園の創立者の思いもそのことにあったと考えます。
 創立一四〇年の歩みを感謝するとともに、今一度「建学の精神」に立ち返って、新たな歩みを始めたいと思います。

アーカイブズ
歴史と伝統を乗り越えて
創立140周年を迎えて
良いものを大切にする教育 
後期始業礼拝より